「すずめの戸締まり」感想※ネタバレあり

とりあえず2回観た時点での感想をつらつらと。

君の名は。」「天気の子」に続き、新海誠ディザスタームービー三部作の殿となった「すずめの戸締まり」は、東日本大震災そのものに直接切り込んだ作品となりました。前作2作品もそれを彷彿とさせる場面(隕石による町の破壊と学校への避難、水没による強制移住など)は見られましが、今回は主人公が被災者そのものであり、津波によって亡くなった母への別れを告げ、そして自らを助けるお話であったと思います。

パンフレット等にも新海監督のコメントとして書かれていましたが、こうした実際の災害を作品で取り扱うのは相当の覚悟が必要だったでしょう。現実に東日本大震災で被災された方のみならず、阪神淡路大震災北海道南西沖地震など、日本には地震あるいは津波で被害を受けた相当数の方がいる。一方で、東日本大震災についていえば、いまの高校生でぎりぎり覚えているかどうか、中学生以下となると、それはもはや過去の出来事としてしか捉えることができなくなっているというのも、また事実なのです。そしてその両者のどちらとも、観客として作品を受容する可能性がある。受け止め方が異なる相手に届くよう正面から何かものを言うというのは、本当にしんどいことだったと思います。

映画の中で携帯から流れる緊急地震速報地震の予兆の演出として何度も使われていましたが、劇場の各所で注意書きが書かれているように、この音がトラウマになっているひともいます。しかしそれを敢えて隠さなかったのは、より若いひとへのメッセージ(そして年月を経るにつれそれは増える)に重きを置いたのではないか。この作品の真ん中に、教師を目指す大学生二人と、母と同じく看護師を目指す主人公を持ってきたのは、これからを生きるひとへのメッセージを送るという意味において成功していたように思います。と同時に、少しずつ衰退する日本という国を「いまいっときでも」長く生きながらえさせたいという、祈りのようにも思えました。

映画の中で自分が特に印象に残っているのは、愛媛の女子高生・千果との出会いと彼女の家(旅館?)での一晩の邂逅、そして神戸のスナック“はぁばぁ”での子守とそれに続く真夜中の食事です。どちらもお話の本筋からはやや外れる部分ですが、本当に丁寧に描かれていて、新海誠の新境地を見た思いです。美しい風景や廃墟はそれ自体見栄えするものですが、旅館のごちゃっとした一室やスナックの中は、実写でやったら野暮ったさの極み。でもそれを見事に新海マジックで温かく美しいものに仕上げている。アニメーションならでは、アニメーションでなければ表現できなかった場面だったでしょう。また、知らない土地でひとからもらう優しさというのは何物にも替え難く、新神戸駅での別れのシーンは涙がこぼれる思いでした。

そしてなんといってもラスト。冒頭、常世で幼い頃の自分が出会ったその相手は、亡くなった母ではなく、その後成長した自分自身だったというのは「先生、怪作『星を追うこども』の借りをついに返しましたね」という思いでいっぱいでした。自分はちょうど新海監督と同い年で、彼も自分と同じく歳を重ねていることにも少しほっとしたというか、何か妙な共感を覚えるのでした。

ただ敢えて厳しいことを言うとすれば、いま直近で世の中を揺るがしているのは天災ではなく人災というべきものであり、東日本大震災でも「津波の霊たち 3・11 死と生の物語」のような話もあったのです。例えば「天気の子」の終盤で、陽菜の救済に向かう帆高が立ち塞がる警官に向けてぶっ放した弾が、警官に当たって誰かが死んでいたら、それでも彼が陽菜を助けに向かったことは正しかったと言えるのか。それとは気づかず命と命のやりとりをしているのだという、そういう自覚の上で問題に挑まなくてはいけない世代に差し掛かっていると思います。三部作を作りきった新海監督がどのような方向に進むのか、まだまだ楽しみは終わりません。