HM7000とは
HM7000とは、Hornbyが従来のDCC Sound DecoderであるTTS Sound Decoderシリーズの後継としてリリースしたBluetooth and DCC Sound Decoderです。
ざっくり比較すると以下の通りです。
TTS Sound Decoder | HM7000 | |
インタフェース | NEM652(8pin) | NEM652(8pin), MTC21(21pin), Next18 |
電源方式 | DC(*1), DCC | DC(*2), DCC |
制御方式 | DC(*1), DCC | Bluetooth(要専用アプリ), DCC |
サウンド | 書き込み済み (変更不可) |
書き換え可能 Hornbyが提供するサウンドプロファイルを専用アプリ経由で書き込み |
(*1) 走行のみで、サウンド非対応。 (*2) 制御はBluetoothで行う。
TTSがいわゆる普通のDCCサウンドデコーダーであるのに対して、HM7000はDCCサウンドデコーダーの機能に加えて、専用アプリを使ったBluetoothによる制御に対応しているのが特徴です。
ESUのLoksoundやZimoもDCによる簡易的なサウンドには対応していますが、サウンドを楽しむためにはDCCが必須でした。HM7000は、無料のスマートフォン専用アプリを使うことで、DCでもDCCと同じレベルの走行、サウンドのフルコントロールを可能としています(下図左)。つまりDCユーザーでも、DCCコントローラーなどの追加投資をせずに、既存のレイアウトで同じレベルの体験ができるわけです。
またHM7000はDCCサウンドデコーダーでもあるので、将来DCCに移行したときに、そのままDCCサウンド対応車両として運用することもできます(下図右)。
Bluetoothによる制御はHornby独自仕様のものなので、専用アプリを使う必要があります。したがって、必ずしも完璧なソリューションというわけではないかもしれませんが、メーカーとしてDC, DCC混在の利用環境に対して解を示したという部分において、評価されるべきプロダクトだと思っています。
さらに価格が£60程度と、ESUやZimoのサウンドデコーダーの半額近いのも魅力的です。対応サウンドがHornbyが提供されるものに限定される(英国機のみ)ので、直接競合するわけではないですが、価格帯を考えるとDCCユーザーにもアピールするものとなっています。これまでのTTSサウンドデコーダーと同じく「手軽にサウンドを楽しむ」というコンセプトにフォーカスしていて、好感がもてます。
とはいうものの...
そんなわけで、英鉄模型界隈では発表直後から注目を集めていたわけですが、実際に製品がリリースされると、そんな薔薇色の世界ばかりが広がっていることがないことがわかってきました。
対応するサウンドプロファイルが思ったより少ないとか、Android版のアプリのリリースが遅れている(現時点でもまだcoming soon...)とか、そういう問題もあるのですが、楽観的に考えれば時間が解決してくれるでしょう。ただ時間では解決されない(と思われる)最大の問題が、デコーダーのサイズです。特にNext18インタフェースの場合は小型車両で多く採用されていて、もともと車両側が想定するデコーダーのスペースに余裕はない場合がほとんどで、HM7000のような大きなサイズのデコーダーは入りません。
1つ目の動画でも触れられているように、DCCデコーダーの設計の問題というよりも基板上にBluetoothのアンテナを実装するためにスペースが取られているためなので、根本的にHM7000が抱える問題です。もしサイズをとってアンテナを犠牲にすると、当然Bluetoothの接続性の問題が出てくることが予想されるので、おいそれと解決する話ではないでしょう。
HornbyはNext18についてTT:120向けの利用用途を想定しているようで、当然HM7000に合わせた設計がなされているようです。ただそれ以外他メーカーのNext18インタフェースを持った車両に搭載するのは、どうやら望み薄のようです。
さらに自分の場合、DCレイアウトとして運用しているOO9のサウンド対応ソリューションとして使うことを考えていたので、サイズ問題は致命的でした。
ならば、車両に積まなくてもいいんじゃない?
せっかく面白いプロダクトなので何か使い道はないかしら?と考えた結果、サイズがデカくて車両に積めないなら、積まないで使えばいいんじゃない?ということで、サウンドボックスを作ることを考えてみました(下図水色部分)。
HM7000が電源としてDCに対応していることを利用して、DCアダプタからの入力をHM7000の線路入力(赤、黒)につなぎます。そしてモーター出力(オレンジ、グレイ)を取り出して線路に流し車両を動かします。サウンドはサウンドボックス設置のスピーカーから出力し、Hornbyの専用スマートフォンのアプリで走行、サウンド操作を行う、という形です。
50x70mmの基板に部品を載せて配線し、天地をスモークのアクリル板で挟んで取り扱いやすいようにしてみました。
いざ、テスト!
HornbyのHM-7000サウンドデコーダーでおもちゃを作ってみました。 pic.twitter.com/S1qdp1uOPK
— じょばんに (@Giovanni_Ihatov) 2023年5月4日
入れたのは4Fのサウンド。Chuff間隔の調整パラメータがないので、Max Voltageを調整して多少それっぽくというところですが、合わせるのはなかなか難しそうです。もちろんDCCサウンドをちゃんと積んだ場合と比べるもなく、オマケの域を出ませんが、
というところで、お手軽にできるガジェットとしては十分ありかなと。サウンドだけでなく、サウンドなしでも通常のパワーパックよりスローが安定して出せるので、普段使いのコントローラとしても使うのも良さそうです。
HM7000が見せるミライ
というわけで、うちではHM7000はガジェットの部品となってしまったわけですが、個人的にはHM7000が目指す方向はいろいろ可能性があるのでは、と思っています。特にサウンドプロファイルをネット経由でダウンロード&インストール仕組みは、サウンド製作の仕組みを一般に公開していないが故に、課金モデルを含めたプラットフォームを構築することができるのではと考えています。
コンテンツとしてのサウンドの流通は、ESUやオープンサウンドデータで無料のものとしては実現しているものの、課金ありのプラットフォームとして整備されたものはありません。もしHornbyがここに踏み込んで、自社制作だけではなく、数多のサウンド制作者からコンテンツ供給を受けられるようなプラットフォームを作れば、DCCサウンドデコーダーの雄であるESUやZIMOの牙城に挑むことができるんじゃーとか妄想したりします。
あとBluetooth経由だとCVをいじるのもめちゃくちゃ早くて楽ですね... Bluetoothが本命かわからないですが、DCCの規格的にこのあたりはそろそろ革新があってもいいかもと思いました。