憧れの場所、Corrourへ。

始まりは

1本のYouTube動画でした。

ちょうど英国鉄道模型を始めようとしていた5年ほど前、YouTubeにアップロードされた大量の英国の鉄道模型レイアウトやら展示会やらの動画を見ていく中で、"All The Stations"というチャネルを見つけました。VickiとGeoffの二人組が英国中の全ての駅を回るという企画で、駅の様子はもとより、歴史や周辺の名所の紹介、地元とのひとやそこに住んでいる視聴者との交流などが、ほぼリアルタイムにアップロードされる紀行番組でした。二人の軽快なトークもさることながら、異国に住む自分にとって英国の"いま"の鉄道事情を知ることができるという意味で、非常にありがたい番組でした。

その中でひときわ自分の興味を引いたのがCorrourという駅。ScotlandのWest Highlandの中に佇むこの駅は、鉄道以外は徒歩でしかアクセスできない(一応許可された自動車が入れる道はある)陸の孤島。それだけならただの秘境駅ですが、最大の特徴は駅自体が宿になっていて、客室として改装したホーム上にある古いSignal Boxに泊まることができるのです。かつてSignal Boxだったガラス張りの部屋も、ラウンジとして宿泊客に開放されています。

駅に泊まりSignal BoxからHighlandの雄大な景色を眺めることができるー英鉄にハマった自分にとって夢の場所に思えました。もし英国に旅行することがあるなら、是非ここに泊まってみたいーコロナ禍の収まりが見え始めた2023年1月、ちょうどEdinburgh行きを計画していた奥さんに話して、Corruor行きを旅程に組み込むことに決めました。

Corrourへの道

早速ウェブサイトにある連絡先にメールを出して予約方法を聞いてみます。返事が来ないなーと思っていたところ、1週間ほど経ったある日「今シーズンの予約を開始したよー。ウェブサイトからどうぞ。」というメールが来ました。

2名で宿泊できる部屋が3つあって、予約時に選べるようになっています。ウェブサイトの説明からは違いはわからないので、1つめの「MACCAILLIN MOR」という部屋を予約。朝食付きで£180。予約時にはお金を支払う必要はなかったのですが、宿泊する3週間ぐらい前の7月中頃に「デポジット£50を払って欲しいので、電話でカード番号をお知らせください」というメールが来ました。え、電話...?「メールでできませんか?」と聞いてみたものの「電話でないと受けられない」とのことで、時差を考慮しつつ直接国際電話をかけてカード番号を伝えて、無事にデポジットの支払いを完了。あとは現地に行くだけです。

Corrourへは、ScotRailが運行するGlasgow Queen StreetからMallaigに向かう列車で3時間ほどかかります。運行本数は1日に3便ほど。この日は12:22発のMallaig行きに乗車しました。

Glasgow Queen Street

ScotRail Class 156 DMU

夏の観光シーズンということもあって、4両編成の列車はほぼ満席のお客さんを乗せて出発です。

非冷房車だが、窓を開ければ十分に涼しい

列車はしばらくは平坦な川沿いを走りますが、やがて湖沿いに徐々に高度を稼ぎながら山あいに分け入っていきます。

さらに並走する道路とも別れを告げ、何もない草はらをひたすら進みます。

Corrour Station

15:52、出発が少し遅れたこともあって、定刻より30分ほど遅れてようやくCorrourに到着しました。

ついに来た!

トレッキングに向かうと思しきひとたちが下車して、しばしホームはにぎわいます。やがて列車が出発すると三々五々それぞれの目的地に向けて出発し、駅に再び静寂が戻ってきました。

ScotRailの列車のイラストがかわいい!

駅に併設された宿の母屋にあたるStation Houseでチェックインを済ませます。中はトレッキングに訪れるひとたちに食事や飲み物を提供するラウンジ兼レストランになっていました。

薪ストーブには火が入ってました(というぐらい外はまぁまぁ寒い)
LOCH TREIGのネームプレートと61775のナンバープレートは
かつてこのWest Highland線を走っていたLNER Class K2 2-6-0のもの

Corrour Signal Box

鍵を受け取って再びホームに戻り、まずはお部屋へ。

手前の平屋の建物に2部屋
Signal Boxの階部分に1部屋(とパントリー)

客室はシンプルでダブルベッドがひとつとシャワー、洗面、トイレ
パネルヒーターの暖房があり、十分暖かい
窓の外はすぐ線路(!)
部屋にはWest Highland線を走った蒸気機関車(LNER Class K-1, K-2, K-4)の紹介が額縁に入れて飾られていました

一休みもそこそこに、Signal Boxに向かいます。ガラス張りの2F部分は宿泊者の共用スペースになっています。階段を上っていくと...

ついに、この瞬間が訪れました。

ラウンジというぐらいで、ソファーと遊び道具なんかも置かれています。

Scotland版モノポリーが置いてあった

本来のSignal Boxとしての面影は、360度見渡せるこの景色ぐらいのものです。本線のUp/Down方向のいずれもよく見えます。

(左)Glasgow方面 (右)Fort William方面

一応Corrorの駅は1面2線(+引き込み線)で行き違いができるようになっていますが、線路の状態を見るに営業用としてはここで行き違いをするようにはなっていないようです。かつてこのSignal Boxで操作していたポイントは、それぞれのポイントの側にある手動テコを使うようになっているようです。

Loch Ossian

晩ご飯までまだ時間があったので、近くの湖(Loch Ossian)まで散歩に出かけました。

周りは基本的に湿地だが、道は乾いていて歩きやすい

30分ほどで到着。湖畔のベンチに腰掛ける。何もない。あるのは風音だけ。

英国ならどこにでも咲いているヒースの花(だがきれい)

湖畔にはユースホステルがある。トレッキングをするならこちらが便利。

帰り道。晴れたり、曇ったり、雨がパラついたり。天気は目まぐるしく変わる。

見えてきたStation House。やはり周りには何もない。

晩ごはん

晩ごはんはStation Houseでいただきます。これがどれもめちゃくちゃ美味しかったです。

鹿肉の燻製のプレート

鹿肉の煮込みシチュー(手前)と鹿肉のバーガー(奥)
シチューに添えられているマッシュポテトがちゃんと作ってあってまた美味い

ご飯のあとは部屋で淹れた紅茶やコーヒーを持って、またSignal Boxのラウンジへ。しばらくするとFort WilliamからやってきたLondon Euston行きのCaledonian Sleeperがやってきました。

21:20 Mallaig行きの最終列車が出ると、もう駅に訪れるひとはいません。風力発電の風車の回る音だけが残ります。

朝の散歩

翌朝。外気温は7, 8度といったところ。天気は申し分なかったので、ダウンを着込んで散歩にでかけました。

Corrour Station近くにイギリス鉄道網の最高地点があり、"CORROUR SUMMIT"の看板が立っていました。それでもたったの411m(1350ft)。いかに平らであるかがわかります...

朝ごはんを再びStation Houseにて。

奥さんがスモークサーモンとオムレツ。自分はScotish Full Breakfast。ソーセージが鹿肉でした。これまた美味しい。

チェックアウトを済ませて、11:21発のFort William行きの列車まで再びSignal Boxでゆっくり。すると、Glasgow方面から線路の上を走ってくる黄色い...車?慌ててホームに降りてカメラを向けます。

Network RailのRRV (Road Rail Vehicle)なのだそうです。もちろんホームは通過しましたが、その先の出発信号で一旦停車してトークンをもらったのちに再び出発していきました。

終わりに

自分が現地で見たものは、きっかけとなったYouTube動画で紹介されているもの以上のものではないのですが、それでもなお行って本当によかったと思える場所でした。この記事を見て「あ、いいな」と思った方は、是非とも行ってみられることをオススメします。