「ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか 民主主義が死ぬ日」(ベンジャミン・カーター・ヘット/亜紀書房)

もともとTwitteで見かけた以下の書籍、原田昌博『政治的暴力の共和国――ワイマル時代における街頭・酒場とナチズム』に興味を引かれたのだけど、大学の出版会からの刊行ということで、おそらくある程度歴史背景を理解している人向きと思われた。

そこで前提を理解しておくために、たまたま書店で目に止まったものを選んだ。

ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか——民主主義が死ぬ日 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-13)

第一次世界大戦後のドイツにおいて、ヒトラー(ナチ党)が合法的に権力を掌握するまでの一部始終を詳述することで、どのような力学が国家を破滅させる指導者を選ぶに至ったかに迫っている。1919年に制定されたヴァイマル憲法は、当時の最高水準の民主主義を採用し、厳密に割り当てられた比例代表選挙、男女平等を含む個人の権利と自由の保障を明文化していたにも関わらず、だ。

ドイツにおけるナチ党への支持は、戦間期にヨーロッパに広まっていたパターンに合致している。ファシスト政党が、たとえまだ権力を握っていなくても、著しい数の大衆の支持を得た過程を詳細に追うと、第一次世界大戦後のヨーロッパの二つの異なる地図があわられる。第一次世界大戦の敗戦国の地図と、共産主義革命の脅威にさらされた国々の地図だ。

(中略)

つまりナチズムは、グローバリゼーションに対するドイツ特有の極端に激しい反応というわけではなかった。他国からの影響を強く受けた国際的反応だったといえる。

当然ながら当時このように状況を把握し、かつ対処できる勢力はいなかった。いまこの時代から俯瞰することで、ようやく理解ができることもある。そう、自分たちは、幸いにも歴史から学べる立場にあるのだけども、過去ではなくいまを俯瞰するための地図をもっているだろうか。

文中に大量に人の名前(政治家、軍関係者)が出てくるのだけど、巻頭にある主な登場人物の解説を厭わずに読めば、当時の苦悩を追体験できる良書だと思う。