腕木式信号機(その1)

さて次なるプロジェクトのお話です。直近の車庫改修が大工事だったこともあり、今回は少しお手軽なものということで、腕木式信号機(Semaphore Signal)を導入してみたいと思います。

腕木式信号機は、鉄道発祥の地イギリスで鉄道黎明期から使用され、幾度にわたる改良を重ねられ、いまも現役で使われている英国鉄道風景になくてはならない存在です。

いまのレイアウトにはTrain-Techの色灯式信号機(2灯式、3灯式)を導入していますが、腕木式信号機は当時設置の難易度から諦めたのでした。

上記過去ブログ記事にも書いていますが、OO Scaleで使える腕木式信号機Dapolからモーターで動作するものが製品化されており、バリエーションも豊富です。腕木が動くだけでなくLEDによる発光もサポートされており、仕様としては申し分ありません。

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またDCC制御に関しても、Train-TechからDapolの製品向けのDCC制御用モジュールが発売されていて、これを組み合わせることでDCC制御可能なLED付き可動腕木式信号機が出来上がるのです。これを買わないで何を買う?という感じですね。

ところが。

この製品、ウェブカタログを見てもわかるように、ベースボード下に埋め込む部分のサイズが異常に大きいのです。

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もちろんサーボモーターなど腕木を動作させる仕組みが入っていると思うのである程度は仕方ないと思うのですが、ベースボードの下にぶら下げるにはちょっと躊躇する大きさです。

またRMWebに投稿されていたマニュアルを見ると、設置の際に必要な穴の直径は15mm、ベースボードの厚みは1-22mmとなっていました。いまのレイアウトのベースボードの厚みは25mmあり、さらにその上に5mm厚のコルクを敷いているので、最低でも30mmの厚みが許容されていないと設置できません。また真偽のほどは不明ですが、上記にリンクしたRMWebのDapolの信号機に関するスレッドを読んでいくと、「すぐ動かなくなった」というような書き込みが散見されました。決して安い買い物ではないことを考えると、購入を思い留まるのに十分なインパクトがありました。

そこでDapolの信号機の導入は止め、別の方法を探ることにしました。

腕木式信号機を知る

「可動式」「完成品」という制約を取り払って検索してみると、PECOがRatioブランドで出しているキットが候補として挙がってきます。バリエーション展開も豊富で、信号機の種類だけでなく、Big Four時代の各会社ごとの特徴を再現したものとなっていて魅力的です。

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しかしこの中から一体どれを選べばよいのでしょう?

色灯式信号機では2灯式(Green/Red)、3灯式(Green/Yellow/Red)など、せいぜい信号の灯の数を選ぶぐらいだったのですが、腕木式信号機はそんな単純なものではなかったのです!(いまさら...)

腕木信号機には赤い腕木のHomeと黄色い腕木のDistantがあります。これらHome, Distantはそれぞれ単独でポストに付いているものもあれば、2つが組み合わさったものもあります。また腕木が縦に並んでいる場合もあれば、ブラケットと呼ばれる台に並んで付いているものもあります。

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様々な腕木式信号機

これが何を意味するのか?身近に腕木式信号機を見たことがない自分にとっては、全く未知の領域でした。レイアウトに導入する前に、まずは実際の腕木式信号機の運用を知りたい。イギリスのRail Booksという鉄道関連書籍の専門書店で腕木式信号機に関する適当な本を探していたところ、Great Western Study Groupという研究グループ(?)が出版した「GWR Signaling Practice」という本を見つけました。

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400ページに及ぶ大著で、Great Western Railwayで使用された様々な種類の信号機及信号所の設計、配置、運用について、膨大な写真を交えながら解説されています。まだまだここに書かれたすべてを理解するには至っていませんが、以下にレイアウトに腕木式信号機を導入するのに必要な程度の紹介をしたいと思います。

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Distant, HomeそしてStarting Signals

図は左から右へ一方向に運行される線路において、どのように信号機がおかれるかを示した最も単純な例です。

線路はBlock SectionとStation Limitsの区間に区切られます。Block Sectionはいわゆる閉塞区間で、原則としてこの区間に入れる列車は1編成のみです。

Station Limitsは駅やヤードなどの区間となる部分で、この区間内には本来もっと複雑な配線や信号が存在します。そのStation Limitsに入る最初の停止信号機(Stop Signal)をHome Signalと呼び、最後の停止信号機をStarting Signalと呼びます。そしてこの例ではStarting Signalから次のHome SignalまでがBlock Sectionとなっています。

Home SingalとStaring Signalが停止信号機であるのに対し、その手前におかれる警戒信号機(Cautionary Signal)をDistant Signalと呼びます。信号機の置かれる場所が信号所から離れていることから、この名が付いています。

腕木式信号機が表す信号はDanger/OnもしくはAll Right/Offです。腕木が真横の状態がOnですが、Offについては腕木が上方に傾くタイプ(Upper Quadrant)と下方に傾くタイプ(Lower Quadrant)の2種類があります。イギリスではUpper Quadrantが主流ですが、Great Western Railwayの路線はLower Quadrantが使われていたようです。

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Upper QuadrantとLower Quadrant

また腕木の形は、停止信号機が四角い腕木を持つのに対して、警戒信号機は一端が燕尾形(Swallow Tailed)になっているのが特徴です。また色も停止信号機の赤色に対して警戒信号機は黄色で塗られています。

さてこの基本を踏まえて、バリエーションを見ていきます。

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左側はHomeとDistantが1つのポストに付いた例になります。これは次のHomeに対するDistantが、手前のHomeと近接しているときに同じポストにまとめて設置されます。

右側はブラケットに複数のHomeが並んでいる例になります。これはDirectional Signalといって、分岐の手前に設置されるもので、分岐のどちら側に進行するのかを示すものです。中央のHomeはMainへの進行を示し、左の少し低い位置にあるHomeが右のBranchへの進行を示します。

これはほんの序の口で、信号機の世界は沼... いや奥深いわけですが、それはまたの機会にするとして。以下の2種類の信号機をレイアウトに設置してみることにしました。

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いまのレイアウトの配線から選んだ... というよりは「なんとなくかっこいいから」という理由ですが(何のために調べたんだ...)、これを設置する場所については多少調べたことが役に立つはずです。

では次回から製作に入っていきます。

(つづく)