Hunt Couplingを試す

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Hunt Couplingとは

今年のはじめぐらいから、英国鉄道模型関連のブログやYouTubeなどで見かけるようになったHunt Coupling。West Hill Wagon Worksが製作する磁石で連結するタイプのCouplingです。製品の概要については、以下のHornby Magazineのビデオクリップを見ていただくのがよいかと思います。

国鉄道模型のOO Scaleで一般的に使われているのはTension Lock Couplingです。

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構造は簡単ながらも見た目はリアリティに欠けますし、連結面の間隔も大きくなりがちです。一方Hunt Couplingは、連結器の見た目そのものを改善するものではありませんが、連結面を実車に近い間隔にし、またPush/Pullのどちらの方向への運転でもズレがおきないため、一定の間隔を保つことができるのが特徴です。また強力な磁石による連結と単純な構造により、信頼性や扱いやすさという面でも利点がありそうです。

そんな製品への興味もさることながら、歴史的には昔からあったであろう磁石によるCouplingを、"Hunt Coupling"と名付けて雑誌、ブロクやYouTubeといったメディアを通じて宣伝して売っていこうという、West Hil Wagon Worksというメーカーそのものにも興味を惹かれました。

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こういう小規模のメーカーがニッチだけど面白いカスタマイズ製品を出してくれることは、鉄道模型の楽しみの幅を増やす上で欠かせません。ましてや英国鉄道模型向けに作ってくれているのですから、この楽しみに乗らない手はないと思いました。

ちょうど先日Hornbyから発売されたスライドドア改造版のMk3客車を導入したので、それに合わせてHunt Couplingを試してみることにしました。

Hunt Couplingは車両のメーカーや種類ごとにカスタマイズされたバージョンを出していて、Mk3客車向けだけでも5種類(!)ものバージョンがあります。

  1. Clip Coupling - Hornbyの古い製品向け
  2. NEM Socket - 一般
  3. NEM Socket - 短い版
  4. NEM Socket - Hornbyのスライドドア改造版Mk3客車向け
  5. NEM Socket - Oxford RailのMK3客車向け

Clip CouplingとNEM Socketはそもそも形状がちがうので、別バージョンになるのは当然ですが、NEM Socketでなぜこんなに種類があるか聞いてみたところ、製品によって長さを変えているとのことでした。

今回のお試しとしては、新たに導入するスライドドア改造版Mk3客車向けの4. とともに、所有するFirst Great Western Mk3客車向けに1. も合わせて購入してみました。

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Clip Couping - First Great Western編

まずはCouplingそのもののをTension Lock Couplingと比較してみます。こうして見ると、長さについてはほぼ同じになるように設計されているようです。

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次に車両に取り付けて連結した状態での比較です。

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静止状態では、連結面の感覚としてはそれほど見た目上の変化はありません。先ほどのCouplingの長さの比較からも当然の結果とは言えます。ただ走行時にTension Lock Couplingでは特にPull方向の運転でもっと間隔が開くことになります。Hunt CouplingはPush/Pullともに、走行時でもこの間隔を維持できるところが違いとなるでしょうか。

実際にHunt Couplingで走らせてみました。

レイアウト本線の最小曲率半径は430mm(2nd Radius相当)ですが、Pull/Pushともに問題なくスムーズに走行してくれました。実は走行時でも見た目はそんなに変わらない...かもしれないですね(笑)。敢えてあげるとすれば、加減速やカーブにおいて連結部ががちゃがちゃしないので走りがソリッドな感じもします。もともとのTension Lock Couplingがごついタイプのものだったので、見た目もかなりスッキリしました。

NEM Socket - スライドドア改造版Mk3編

同じくCouping比較から。このスライドドア改造版向けはTension Lock Couplingに比べて明らかに短く設計されています。

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次に車両に取り付けて連結した状態での比較です。

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おぉ!この連結面間隔はまさに新境地という感じです。新しいMk3では幌の形状も従来製品とは変わっているので、連結面間隔を近づけるとより実感的に見えます。

Class43 HST Power Carにも同じように専用のHunt Coupingをつけます。こちらも連結面が美しいですね。

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新しいMk3に対してこの連結面間隔を実現できるのは、Coupling機構が従来の台車マウントからボディマウントに変わっていることによります。これによりCouplingを短くしても小さな曲率半径の走行が可能になるので、小さなレイアウトでも実感的な見た目が楽しめるというわけです。ただ連結機構がボディマウントなのは欧州鉄道模型の客車では一般的な構造だと思うので、Hornbyもやっと対応してくれたかというのが正直な気持ちです。

さて走行させてみます。

あ、アレアレ?... Pull方向では快調に走るのですが、Push方向では比較的低速でも脱線が確実に発生するようになりました。同じHunt Couplingを使っても、先ほどの旧タイプのMk3客車では起きなかったことです。いったい何が原因か。ここから事故調査が始まりました。

脱線の原因を探る

スライドドア改造版Mk3客車向けのHunt Couplingはずっと連結面間隔が小さいのが特徴です。うちの急カーブのあるレイアウトでは連結面同士がぶつかってしまい、結果として脱線の原因になっていることが考えられます。そこで一旦Hunt Couplingを取り外し、付属のClose Couplingで走行させてみました。

結果は... 同様に脱線が発生。つまりこれはHunt Couplingの問題というよりは、新しいMk3客車のボディマウントのCoupling機構からくる可能性がありそうです。もしそれが事実なら他のひとも問題を踏んでいるのでは... Webを調べてみるとRMwebで新しいMk3客車に関するスレッドがあり、この新しいCoupling機構に関する問題にも言及されているようでした。

West Hill Wagon Worksにこの問題について脱線動画へのリンクを含めてメールで問い合わせたところ、「同じ問題だと思うから参考になれば」と1本のビデオクリップのリンクが送られてきました。

つまり脱線はカーブなどでCouplingが左右に振られた後に正しく戻らないことによって起きているとのことのようです。実際手元の4両の新しいMk3客車のCouplingの状態を調べてみると、全部で8つあるCouplingのうち、約半数にこの症状が起きていました。

具体的には下の写真のように一旦曲がった状態から手を話しても、本来であればバネの力で自然に戻るところが、矢印の部分でひっかかって戻りません。

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前掲の脱線の動画では、カーブを抜けた後の直線で車体がフラフラと外に押し出されるような形で脱線しています。確かにCouplingが曲がったまま引っかかって元に戻らないとすると、Push向きの走行では外側に押し出す力が加わることになり脱線が発生する原因の説明がつきそうです。

ということで。引っかかるCouplingに対しては、下記写真の黄色の丸で囲んだ箇所に少しヤスリを入れて、曲がった状態から手を離すと自然に戻るように調整してみました。

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正直こういうところに手を入れるのは、得てして症状が悪化したり副作用が出たりする場合もあるので、ちょっとドキドキです。やりすぎないように少しずつ進めて4両とも調整完了して走行試験へ。

ビンゴでした。修正前で脱線していた低速走行時に加えて、高速走行時でも脱線は発生せず、問題なく走行可能となりました。これでHunt Couplingへの置き換えは無事完了です!

おわりに

途中から新しく搭載されたボディマウントCouplingの問題へと話が脱線した感がありますが、Hunt Coupling自体には非常に満足しています。特にMk3 HSTのように

  • 固定編成が中心
  • Push/Pullの両方の走行パターンがある

ような場合には特に向いているのではと思います。

また今回West Hill Wagon Worksサポートからの的確な返信のおかげで、このCouplingの問題を克服することができました。この件以外にも何度かメールをやりとりしているのですが、いつも翌日には返信をくれるので、単に製品だけでなく個人的に推したいメーカーのひとつになりました。

一方で、このCoupling機構を載せてきたHornbyのツメの甘さは...新しいMk3客車はよくできているだけにちょっと残念です。とはいえ、いつまでも台車マウントのCouplingというのもそれはそれで寂しすぎるので、少しずつよくなっていくことを願っています。