「玻璃の天」(北村薫・文藝春秋)

玻璃の天

先週は出張でNRT-SFOを往復してたのですが、機内の楽しみにと思ってとっておきの一冊を持参。しかしこれがベッキーさんシリーズの一冊とは読むまで知らず、、、いやー至福のひとときでした。お酒が入って落涙。「幻の橋」で英子が海老塚さんに「死なないでください。」という場面と、「玻璃の天」のラスト、ベッキーさんが英子に声をかける場面。特に後者は「お嬢様−」の台詞と「−参りましょう。」の間が偶然とはいえページを跨いだ形になっていて、この行間、ページをめくるその間にすべてが凝縮されているように感じられました。呼びかけ、つむぎだされた言葉がいつも通りの「参りましょう」という言葉だったことに、きっと英子もベッキーさんの置かれた立場の儚さを思い知ったことだと思います。

前作ではベッキーさんは謎の人物のままでしたが、今回ははっきりとその輪郭が現れると同時に、主人公の花村英子が随分と話の主導権を握るようになってきたように思います。「円紫師匠と《私》」シリーズと同じく、推理小説、時代小説の形を取りながらも主人公の成長物語をしっかりと織り込んでるところが僕にとっての北村作品の最大の魅力です。や、戦前の上流階級のお嬢様モノというのも十分魅力的なのですが。

ちなみにYahoo!ブックスのインタビューを読むと興味深いです。実は参考文献になっている「女子学習院五十年史」というのを読んでみたいと思いましたが、やっぱそんなに簡単に手に入るものではなさそうですねー。

前作の感想はこちら。読み直したくなって夜に散髪に出かけたついでに地元の書店に寄って文庫版を購入。