「オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史」

オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史: 3 帝国の緩やかな黄昏

どうしてこの本を読もうと思ったのか、自分でもよくわからない。

ここ 2, 3 年、以前よりもずっとクロースにUSのひとたちと仕事をするようになり、仕事上の価値観が共有されていく一方で、仕事以外の普段の暮らしの差異が気になるようになってきた。出張の帰りの飛行機の窓からやがて着陸する日本の町を眺めるたびに、そのことを実感させられる。「ああ、あそことは違う国に帰ってきた」と。ただ僕はUSで暮らしたことがないので、その実感(憧れというべきか)はおそらく事実とはかけ離れた妄想であることは否めない。まがりなりにもUSマーケットの売り上げで食べさせてもらっている身としては、せめてその妄想を少しでも地に足がついたものになるよう、免罪符のようなものとしてこの本を読んだんだと思う。

この本の内容をやや乱暴に一言でまとめるとすると、アメリカ大統領制には光と影があって、そんなにうまくいっていないこと、そして日本人が「戦後」と称している第2次世界大戦後の世界は、20世紀が始まった100年前、つまり「戦前」とそんなに変わらない、ということになるだろうか。
日本の政治家、ひいては内閣総理大臣が相当の人材難であろうことは、近年の変わり方を見れば一目瞭然なのだけど、世界の政治のトップともいうべきアメリカ大統領だって、たいして恵まれているわけはなさそうである。しかも下手に権限がある分、うまくいかない時の悩みだって相当のものだ。日本でも政治の停滞を解消すべく、首相にアメリカの大統領なみの権限を持たせるべきというような主張があるけども、アメリカの例を考えると、最悪首相がトンデモないやつだったとしても国としてクラッシュしないような仕組みにしておく方が、国の仕組みとしてはよっぽどロバストであると思う。

アルゴ [DVD]

この本を読んだあと、気になってイランのアメリカ大使館人質事件を題材にした映画「アルゴ」を観なおしてみたのだけど、読む前と読んだあとでは全くと言っていいほど印象が変わってしまった。もちろんカナダ大使館に身を寄せた6人の悲劇性には映画のストーリーとしては一定の説得力を持つのだけども、史実としてそれまでイランに対してアメリカがしてきたことを天秤にかけられるのであれば、そこに全く同情の余地はないと思えるのだった。その一方で、映画中盤、CIAの兄ちゃんとその6人が映画クルーを装ってバザールにロケハンに出かけたとき、アメリカの武器で息子を殺されたと主張する店の亭主が叫ぶあの想いは、映画のなかでは全く救われない。まぁよくこういうものを臆面もなく映画にしてしまうよな、と若干あきれる気がする。唯一の救いは、主人公が家に持ち帰った偽映画「ARGO」のストーリーボードが、父が息子を助ける場面が描かれたものだったこと。それが、主人公本人の救われなさ(家族と離れ、彼が命をかけて手がけた救出劇は帰国後に闇に葬られた)と、あのバザールの亭主の救われなさをせめてつなぎ止めるものだった、と勝手に妄想するよりほかない。

オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史」は3巻セットの長丁場だけど、ベトナム戦争が終わる2巻ぐらいまでは面白かったので、そこまではオススメです。