「紛争と難民 緒方貞子の回想」(緒方貞子・集英社)

紛争と難民 緒方貞子の回想

1991年から2000年の10年間に渡って、第八代国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子氏の本人自身による活動の記録「SADAKO OGATA THE TURBULENT DECADE - CONFRONTING THE REFUGEE CRISES OF THE 1990s」の日本語訳である。

具体的には氏の任期中に取り組んだ難民帰還活動、クルド難民、バルカン難民、アフリカ大湖地域における難民、アフガン難民の4つの地域におけるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の活動について、何を目指し、どのような経緯をたどり、結果として何をなしたのか(なさなかったのか)がまとめられている。日本語訳の題名には「回想」という言葉が用いられているが、この書の目的は過去の事実を明らかすることにより、明らかに現在そして未来の難民帰還活動を望むべき形にするにはどのようにすればよいかというメッセージが込められている。

恥ずかしながら、上記に挙げられたいずれの地域についても、僕自身は紛争があり難民が発生したという事実を新聞の片隅の記事やニュースで得ていた程度で、なぜそのような事態が発生し、現在もなお進行中なのかということについて深い興味を持ったことはなかったように思う。想像の域を出ないが、多くの日本人の認識はその程度であったのではないだろうか。バルカン難民については、冬季オリンピックを行ったサラエボが廃墟と化した映像がテレビを通じて流されていただけあって、多少なりとも関心を引いた面はあるかもしれない。けれどもアフリカ大湖地域に至っては、アフリカ大陸のどの場所でどのような国があって、なぜそのような問題が起きているかを説明できるひとはおそらく限定的なひとに留まるだろう。しかしながら、ルワンダには実際に自衛隊が難民救援を目的として派遣されているという事実がある。ルワンダの人は(たとえ一部であろうとも)日本が実際に難民救援に来たという事実を通して日本を見ているのに、日本にいる多くのひとはルワンダを知らない。このギャップは、絶対に埋めなければならない義務のように思う。

氏は、国際社会が決してあなたたちを見捨てはしていないのだということを示すことで、関係国との関係をつなぎとめ、何とか一人でも多くの命が救えないかと奔走した。限られた予算と人員と状況の中、多くの命は意味もなく失われ、圧倒的なひとたちは本意ではない生活を余儀なくされるなかで、それでもなお良い方向を求めて活動を続けるUNHCRの職員の方のことを考えると、がんじがらめの日本の国連平和維持活動への参加についても、それが明日の誰かを救うことができるのなら続けるべきだし、もっと自分たちがやっているという意識を持たないといけないように思った。それは以前少し取り上げた9条の議論にもつながるものだと思う。

たぶんもう少し突っ込みが必要だが現状を記録しておく。