「恐るべき旅路 火星探査機『のぞみ』のたどった12年」(松浦晋也・朝日ソノラマ)

恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年―

NRT→LAX→LHR→NRTの北半球一周ツアーのお供に選んだのがこの1冊。文部省・宇宙科学研究所初の惑星探査機PLANET-B(打ち上げ後「のぞみ」と命名)の構想から設計・開発、打ち上げから運用終了までを、関係者へのインタビューも含めてまとめたドキュメンタリー。予算、時間、組織、技術など様々な制約の中での労苦もさることながら、一研究者の発案で「あなたの名前を火星へ」というキャンペーンが行われ、純粋な研究目的の機械が多くのひとの想いや人生を運ぶ星へと変わっていく様は、宇宙開発の見方そのものの根底から変えてしまう力があった。

自分も含めてなんらかのプロジェクトに関わったことのあるひとならば、この「のぞみ」の体験はとても他人事には思えないだろう。途中で道を失って目的地にたどり着けるかどうかかわからなくなったり、ものすごく遠回りをしなければいけなかったり、目的に到達したとしても既にその意味が失われていたり、苦労した挙句に目的を果たせないことは珍しくない、いやむしろ日常茶飯時だから。

この本は読みものとしても十分印象的だったが、今後自分がいろんな仕事をしていく上での重要な知己を示唆してくれたように思う。僕がこの本から得たことは2つ。ひとつはモチベーションを維持することの大切さ。もうひとつはプロジェクトに関わる人々の人生の重さだ。特に後者については今まで深く考えたことがなかった。そのプロジェクトがどうであれ、関わるひとたちの人生の一部を食べることによってしかプロジェクトは成り立たない。逆に言えば、プロジェクトに関わるということは自分の人生の一部を差し出すことに他ならない。

まだ残り時間の計算をするほどの年齢にはなっていないとはいえ、少なくとも今のような立場で仕事に関われる時間は実はそんなに多くないのではないかという考えが頭をよぎった。仕事を選り好みできるほど能力があるわけではない。だから余計に、いまやっていることをより前向きに考えるよりほかない。そしてそれは結果として、同じ仕事に関わるひとの人生もよい方向に導くことができるはず。出張先で読むにはあまりに重い本だったけど、その価値はあった。